活字をこえて

製本と修繕を習っています。本に関することや考えたことの記録。

20190124【製本修行】2冊目完成

仕事で足止めを食ったので、いそいでバスに飛び乗る。昼に残しておいたパンをかじりながら製本所へ。フランス人は決して食べ歩きしないそうだけど、今だけは関係ない。

 

2分すぎて到着すると、お師匠が絵本の見返しをはがしているところだった。絵付きのハードカバーだったので、それをそのまま使うことになったのだ。背表紙に貼ってあった黄色いクロスが古かったので、そこに革を貼ることにして、その革も切り出して漉いてくださっていた。

固く絞ったふきんで湿らせるときれいに剥がれるから、ライス糊だったのだろうとのこと。(化学糊や膠だとこうはいかない)けれどこれは洋書だ。ライス?と疑問に思ったが、要はどの国でも糊はデンプンでできているということだろう。

今日は背固め、と思っていたけれど忘れていた、丸背に挑戦させてもらえるということだった。林芙美子が1台が分厚いので角背にして、ガリバーとなにかの詩評関連の硬い本は1台が薄く台数も多いので、丸背にしやすかろうとのこと。まず絵本の背固めをしてしまってから、林芙美子の耳出しをして背固めをしてふたつをヒーターの前で乾かし、ずいぶん前に奥様が運んでくださっていたポットのお茶で一服。なんだかフルーティ、聞けばオーガニックライチのフレーバーティーだった。お茶うけはリンツのチョコレート!

そして丸背のやりかたを教わる。角背ならばそのままバッケ板に固定して叩くのだが、丸背はまずクロスの切れ端で帯をして固定、本を机に押し付けたままページを六分持ち上げ、親指の腹で押しつつ外側をひっぱりアールをつける。最初だけ六分持ち上げるのは、アールが山にならないように。裏返して五部もちあげ、調節しながら三日月を作る。ほんとうにこんな手作業だとは!帯で固定しているとはいえ、アールをつけたあとの扱いは慎重となる。アールがずれないように保ったまま寒冷紗を巻き、天地を間違えないようにスピンをつけ、花切れをつけ、ハトロン紙2枚を貼る。花切れとスピンは林芙美子にもつけた。

その時点で2時間から2時間半だったか、けど絵本は仕上げようということで、最初に見返しをはがした台紙に革を貼る。いつもと順序が逆になる(というのをわたしは理解できなかったが)ということでお師匠がいろいろ計ってくださって革に印をつけ、背表紙の厚紙を細く切り出し(お師匠は0.5ミリのことを500ミクロンと言うからややこしい)、溝に熱したコテを押し当てるのだが、牛革が伸びたり溝がわかりにくくて熱いコテで革を傷つけてしまったりしててんやわんやになった。最後の見返しを貼るのもお師匠がさっさとやってしまったからもしかしたら途中で面倒くさくなったのかもしれないな…。

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革に傷がついてしまった…(わたしがやってしまって表はお師匠にしてもらったのだが、お師匠も手が滑って傷が…笑)

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中身はぶ厚い紙で、きれいなもの。少し見えている見返しは黄色。

 

途中で娘さんがご友人と一緒に食事から帰ってこられて、わたしの分まで切り分けたアイスクリームを頂いたり、なんだか食べてばっかりだな…。と思っていたらエジプト・アラブ土産に上等なナッツを頂いた。お返しというわけではないけれどこの間個人的に書いた小説(格安製本で仕上げた)を渡した。楽しみにしてくださっていたとのこと。せっかく製本を学んでいるのに、それを上製本にするには時間がなかったのが心残り。

お師匠は来週から修士論文の製本が詰まっているらしく、10日間ほどは立ち寄れないことになっている。11人分を4冊ずつとかで徹夜仕事も…。わたしなどこの間一日徹夜しただけでもこりごりだったので、お師匠曰く「盆と正月が一緒に来たようなもんで」(たとえがおかしい?)。活字拾いだけでもお手伝いできればいいと思ったのだけれど、背表紙の厚みで号数を決めるから難しいと断られた。失敗できない仕事の足手まといになるのも怖い。年末の風邪がまだちょっと残っているそうでそちらも心配。わたしより46歳も年上なのだ。わたしが学び続けられるためにも、お師匠の仕事を手伝えるようになりたいなと、そのとき初めて強く思った。