活字をこえて

製本と修繕を習っています。本に関することや考えたことの記録。

20181205【製本修行】弟子入り4日目 箔押し

両親の結婚記念日なのでクリスマスカードを贈った。
実家に煙突を導入したということで、「(暖炉じゃなくてストーブだけど)煙突飛行ネットワークですぐに帰れるようになるね。交通費もかからないね」と冗談を言ったら、「それしよ思たらそっちの部屋(※アパートです)にも煙突つけんなんのちゃうん」と言われた。なかなか現実的じゃない方法でした。フルーパウダーも入手しないといけないし。(※左の会話のネタはハリポタです。ところでアメリカ舞台のファンタビがバンバン姿現ししまくるのに対して、煙突飛行ってなんかイギリスっぽくて良いね。ファンタビとちがって登場人物の中心が姿現しの必要がない学生、というのもあるのだけど)

さて、今日でいよいよ修繕(リメイク)本の完成。
最近は定時上がりの日を獲得するのが難しく、上司の手伝いで遅くなった日なんかの帰り際に「ところで今週も一日定時で帰りたいのですが、何曜日がいいですかね?」なんて言って無理矢理日を決めさせ、実質いろんな追加仕事でスケジュール通りに進んでなくても当日はしっかりと定時でタイムカードを切り風のように帰る、ということをしている。心を強く持つのだ。

工程的には先週貼った表紙に箔押しをしてから本文と接合する。
まず膨大な量の活字の中から、号数を確認しながら該当の活字を拾うのが大変だった。
本来なら4号にしたかった著者・訳者の名前も、福知狂介の「狂」の4号がなくてやむなくすべて3号に変えたりした。(そのせいで後に背幅にたいして二行入れるのが飛躍的に難しくなった)

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活字は号数ごとに、だいたい偏ごとに分けられて壁一面に収められている。以前はどの号数のどの文字がどこにあるのかすぐ手が伸びたとお師匠は言うが、最近は物忘れが多くなったとのこと、わたしはというとまだ場所を覚えられないのはもちろんのこと、印字面がこちらを向いているため、鏡文字を見て探し出すのが思ったよりも難しかった。その上、一部旧字まで揃っているのだ!(それも、号数ごとに!)どれがあって何がないのか把握していなければ、どんなレイアウトにするかも定まらないというわけ。どうしても無い活字は発注しなければいけないが、昔は京都にあった店もなくなり、大阪と名古屋もなくなり、今や東京に1店あるだけだという。

ようやく活字を拾い終わり、箔入れ。号数によって、また箔の種類やクロスの素材によって、押す力や熱は異なるそうだ。箔入れの機械は55年、お師匠とともにある。日によって調子が変わるので、それも計算に入れないといけない。ニクロムは特注で、壊れたらもう直してもらうあてがない。もはやお師匠の引退を待つのみであった機械を、ほんの少し使わせてもらう気持ち。

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押す練習をして機械の手応えを確認したあと、実際のレイアウトを確認していくのだが、ここでまた大騒ぎ(大騒ぎしていたのはわたしだけです)。ふだん広告を作る会社で働いているので、DTPというか、文字の配置などはデザイナーさんたちがひょいっとパソコンでやってくれるのを何度も目撃している。ここではどアナログなので、活字の彫りを横から見ながら背表紙の位置を決めなくてはならない。まず2号の題字を背幅の中心に持ってくるのに、「王」の縦棒を横から見ながら位置を決める。背幅が○mmで活字が○mmだから残りを2で割った○mmが端っこからの距離、だなんて算出もしてみたけれど、実際は厚みや溝があるのでミリ単位だと大きなずれとなる。最終的には目見当で半ばヤケクソに位置を決めた。
小さな本や背幅が薄い本はとにかく小さなずれも命取りになる。
著者・訳者名はもっとむずかしかった。また計算して、王の縦棒から一ミリ外に端が来るよう押せばいいことまではわかったが、俯瞰で確認できないのでまた額をくっつけるようにして片目をつぶって確認する。最後の訳者名は著者と頭を揃えることにしたはいいが、福の横棒にできた、明朝特有の山のさきっぽを見て位置を決めたため、マの横棒とのコンマ5ほどのずれになってしまった。また、漢字はマスいっぱいに彫られるのとカタカナ(とひらがなも)内側に彫られるため、号数が同じでも実際に押してみると大きさの印章がだいぶ違う。
ちなみに、大学や図書館へ入る本などは背表紙にラベルを貼るため、下はそのためにわざと空けるらしいです。
間違うとまた表紙貼りからやり直さないといけないというプレッシャーのなか、ヒーヒー言いながら押しました。ここですでに一時間経過。体感的には30分もない。

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ようやくできあがった表紙に本文をセットしてみたら…おかしい、チリが出ない。何をどう間違ったのか、たぶん溝の幅がうまく取れなかったのだろう、けど天地のチリも微妙に少ないというのはどういうことだろう。天地は花切れが貼ってあるのでどうにもできないとして、小口のところはすこし裁断してもらった。凹む。
溝にボンドを貼って、これも特注のコテで耳のところに接着していく。
見返しには画用紙を使っているため、ライスのりで接着したのだが、勘違いしてたっぷりと付けてしまい、プレスしたときにはみ出る事態に…。開けてみて、見返しが波打っていたのでもう一度長めにプレスしたのだが、ここでまたも失敗。見返しがヨレたままプレスしてしまったのだ。「これは不細工。こんな失敗初めて」とのお師匠の判断で(凹む…)なんと見返しを剥がし(ボンドだとこうはいかない)、もう一度見返しを切り出して接着。きちんと計って切り出したのだが、実際は耳の部分があるためにずれて、本を綴じたときにはみ出してしまった。ただ、完全に乾いた後でカットできそう。なにはともあれようやくこれで本の形に。

最後に元の表紙を切り出して表紙に貼る。古い木製で手動の裁断機を使わせてもらう。
ボンドで貼り付けて完成!そして最後の失敗。先程長くプレスしたためか、裏表紙の見返し遊びと最後のページにのりが染みてくっついてしまった、無理矢理剥がしてみたけれど、真っ赤な画用紙の繊維が残ってしまい…最後の最後に無念。
とはいってもリメイク処女作品、表紙のイラストに赤色が使われているため見返しを赤にしたのだが、緑のクロスに金箔文字の背表紙で、図らずもクリスマスカラーに。娘さんが絶賛してくださった。

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この黄ボールでできた板も、お師匠がわたしのために新しく作って下さったものだ

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興奮さめやらぬ。

 

なんとか年内も時間をつくって、工程をきちんと覚えるためにもほかの本を完成させていきたいと思う。