活字をこえて

製本と修繕を習っています。本に関することや考えたことの記録。

20190425【無二文庫】2冊目

『船の旅 詩と童話と銅版画 南桂子の世界』

 

今日誠光社に寄ることは、実は前もって決めていた。

就活にいったんの区切りがついたからだ。

あとは結果を待つのみの落ち着かない日は、気を紛らわせるに限る。

 

かといって、ぶらぶらと気を紛らわせてばかりもいられないのは、就活しなくていい時間は全て制作に充てないと新作のリリースが間に合わないから。コンセプトはずっと前からできていたけれど、肝心の作品が試作段階のまま止まっている。

今度の世界観はゴールデンウィークに合わせたクルーズコレクション。暑い季節に向かうことも意識した舟での旅。あと、なぜだかこの時期はレモンモチーフを取り入れたくなる。去年は高騰してしまっていた舶来のビーズ、ついこのあいだたまたま正規価格でそれなりの数を仕入れることができたので、ふたつを合わせた企画を練ったのだった。

 

「レモネード号はちいさな帆掛け舟ですが、休暇に遊びに来た子どもたちを乗せるときは豪華客船に早変わり。

「豪華客船レモネード号」は、かつて航海が過酷なものであった時代から伝統的にレモンの木を搭載しているという設定で、ちいさな乗客たちはグランマが作ってくれた自家製のレモネードを楽しみながら船旅ができるようになっているのです。」

この世界観で舟モチーフとレモンモチーフの作品を並べるつもりだ。

企画段階ですでにわくわくしている。今日もあらためてわくわくしたところだ。そんな舟旅に思いを馳せていると、今日入手する本は決まってしまうようなものだ。

 

毎日毎日せわしなく、タスクを消していくゲームのような日々。どうしても閉店時間までに三条の用事を済ませて誠光社へ行きたかったのだけれど、途中本の返却で立ち寄った図書館で、信じがたいことに、おそらく中西進先生を見た。

利用者の中で時間が止まったようになってしまったのはわたしだけのようだったけれど、あの髪型とあのメガネの横顔はきっとそうだ。先生は取材のような人たちと扉から出てきて(そういえば中央図書館の館長は先生だった)、「あ…あ…」と思っているわたしの目の前を通り過ぎるとお手洗いに入ってしまわれた。出待ちする勇気がわたしにはなかった。時間がなかったのがそれを後押しした。バスに乗りながら、千載一遇のチャンスだったかもしれないのに、先生に一言、「ファンです」って伝えるための千載一遇のチャンスだったかもしれないのに……と悔やんだ。忙しすぎる日々を反省した。講演会があったら飛んでいかなきゃ、と思い調べたが、富山か…しかも締め切りはつい先日だったようだ。つい最近岡田淳の講演会をふと見つけて、見てみると申し込み解禁日の翌日だったことが幸いし、やすやす申し込めたのだが、こういうのって呼ばれているかどうかなのかもしれない。

そんなわたしにもあとちょっとでゴールデンウィークへと向かう。連休は連休でしないといけないことをため込んでいるけれど、いつもと違う頭の使い方ができればいいな、と思う。

20190420【無二文庫】1冊目

『Bookworm House & Other Assorted Book Illustrations』赤井稚佳 / 編集:堀部篤史(誠光社)

 

「無二文庫」は書店でも出版社でもなく、本棚を作るという漠然とした企画の名前だ。依頼で本棚をコーディネートし、あなたの無二の文庫を作るという企画。

初依頼は本好きの本棚を作ることになった。相当なプレッシャーがある。

キーワードは提示されていたが、額面通りに用意するかとなるとセンスが問われる気がした。

 

1冊目を選ぶべく、ちょうど街に出てきたので丸善へ足を向けたが、林立する巨大な書架にはいつも途方に暮れてしまう。端末を使って検索してもピンとこない。書架の間を歩いてみると収穫はあったのだが、待ち合わせをしていたので一度出てきてしまった。

コメダ珈琲で腹ごしらえと勉強をして、なんとなく悩みながらも誠光社へ。着いてしまえば悩んでいたのが嘘なくらい魅力的な本が揃っていた(当然だ)。

この企画にあたって、まだ悩んでいることがある。「どの本屋で買うか」だ。

今のところ利益を出すことは考えていないけれど、大型書店で発掘するのがブックコーディネートらしいのか、それとも応援したい街の本屋で買うのが正解なのか、まだ答えを出せていないのだ。ちなみに、古本で買うと本の値段の概念がおかしくなり、モラルにも反するため今のところは考えていない。古本でしか手に入らないような高額本を扱うこともまずないだろうから。

とはいいつつ、セレクト本屋でセレクトされた本を買うのははたしてブックコーディネートになるのか。ちょっと悔しいような…。

さらに難しいのは、自分が読みたい本でなく、きちんと依頼人のことを考えてセレクトできるかという点だ。それでいて一度に数冊でなく、その日の一冊を考えたい。欲しいような本はたくさんあったのだが、同じ日に選ぶことで精神的に偏ってしまう危険があるし、予算はごく限られている。

 

***

 

今日の午後は古い洋館アパートメントで催されたイベントに行ってきたところだった。詩人とボスが朗読とピアノのパフォーマンスをするということだった。

 

ふたりのパフォーマンスを聴きながら、昔ボスが緑色に塗ってしまったピアノのことを思い出していた。そんな彼も夏には奥さんの出産と共に隣町へ引っ越すそうだ。ゆかりのある人々の近況を伝え聞いたが、なぜだかみんな不安定になっているようで胸が痛んだ。我々はもともと環境や時代の変化に強い方ではない、そういう者の集まりだった。たまに集っては文学や文化の話をしながら鍋を囲み、泥酔するまで飲んだものだった。今はない上賀茂の木造アパートで。

わたしにとってはすべての発端ともいえる会の仲間たちである。淡淡と話すボスの話にうなずきながら、せめて彼だけはこれから先も柔軟に生き、鈍感でありつづけてほしいと願った。

 

その洋館アパートメントは築百年で、大正初期に修道院の女性信者のために建てられたという。今も住人がいるが、二階の各部屋は小さなお店になっていて、古本屋やサロンを営んでいるらしい。

古い鍵、漆喰の剥がれた壁、いろんな人が立ち寄り、それでいて静寂。ひっそりとしているけれど、親密な気配があるのは、かつて我々がたまり場にしていた古い木造アパートを思わせ、ひどく懐かしい気持ちになった。いや、懐かしいという言葉だけではとても語れない気持ちになりさえした。

他の演奏は階下の籐椅子に座って聴いた。籐椅子と硝子の天板の籐テーブルが、昔おばあちゃん家にあったものと不思議なくらい細部が似ていて離れがたかったのと、そういうアパートで人の気配だけを感じながら遠くの音楽を聴くのは、あたたかく満ち足りた午後を完璧にした。

 

 

今日選んだこの本も、あるアパートメントが舞台の話。わたしの美しい古い記憶となった木造アパートが存在したように、こんなアパートメントもきっとどこかにあるのだと思う。本とイラスト好きの依頼人も気に入ってくれるだろう。

20190217【製本修行】3~5冊目完成

お師匠の繁忙期に区切りがついたので、筒井敬介著(?)『ガリバー 十六年七か月の旅』林芙美子著『散文家の日記』出隆著『詩人哲學者』の続きをしに工房へ。
表紙を作るところからなので、箔押しまでいくのは難しいかな…と思っていたら、お師匠は完成させる気まんまんでめちゃくちゃ仕事が早かった。娘さん曰く、仕事が立て込んで職人モードになっているとのこと。

箔押しはただでさえ頭が沸騰しそうになるのだけど、本のサイズと厚みが3冊とも同じなのが幸いし、レイアウトが同じにできたので楽だったが、3冊分のタイトルと著者名の活字を拾うのが大変だった。その間に表紙を乾かせられたくらい。
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(ガリバーのタイトルの割り付けはもとの本を参考に。)

職人モードのお師匠によってクロスの色はぽんぽん決められてしまったが、並べるとこれはこれでよい配色。文脈のない3冊は似ていない兄弟みたいで、なのにお揃いで色違いの服を誂えたみたいになっていて可愛い。

このうち丸背のガリバーと詩人哲學者は、硬い机の角で背表紙をごしごし擦りつけ、アールをつける。なので柔らかい厚紙を使うとのこと。
そして耳の部分を接着してコテをしっかりと押しつけ、見返しの紙の具合を見て、ガリバー以外は科学糊、ガリバーは元の見返しを活用して和紙で裏打ちしたものなのでライス糊を使うことにした。刷毛に含ませる糊の量を調節するのが難しい。万力で20~30秒固めて、ガリバーは元の表紙絵を貼る。あとは糊が染みてこないように家で乾燥させればいい。
↓完成
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↓もとの表紙
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丸背作るの難しかったな、こうして見るとガタガタ…。

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乞食王子だけ表紙を作るときにサイズを間違えて、最後の最後で天地を裁断したので小さめ。
絵本を含め、これで持ち込んだ古本5冊文を完成させることができた。娘さんが入れてくださったコーヒーを飲みながら相談して、次からは平綴じを学ぶことに。材料は自分の作品で、作品集みたいにすることにした。袋の状態で印刷しなくてもいいなら、家のプリンターで用意できそうだった。

(1月に刊行した自作の小説を娘さんに献本したところ、なんだか特別大事にちょっとずつ読んでもらっている様子。ありがたく、嬉しいな~)

20190124【製本修行】2冊目完成

仕事で足止めを食ったので、いそいでバスに飛び乗る。昼に残しておいたパンをかじりながら製本所へ。フランス人は決して食べ歩きしないそうだけど、今だけは関係ない。

 

2分すぎて到着すると、お師匠が絵本の見返しをはがしているところだった。絵付きのハードカバーだったので、それをそのまま使うことになったのだ。背表紙に貼ってあった黄色いクロスが古かったので、そこに革を貼ることにして、その革も切り出して漉いてくださっていた。

固く絞ったふきんで湿らせるときれいに剥がれるから、ライス糊だったのだろうとのこと。(化学糊や膠だとこうはいかない)けれどこれは洋書だ。ライス?と疑問に思ったが、要はどの国でも糊はデンプンでできているということだろう。

今日は背固め、と思っていたけれど忘れていた、丸背に挑戦させてもらえるということだった。林芙美子が1台が分厚いので角背にして、ガリバーとなにかの詩評関連の硬い本は1台が薄く台数も多いので、丸背にしやすかろうとのこと。まず絵本の背固めをしてしまってから、林芙美子の耳出しをして背固めをしてふたつをヒーターの前で乾かし、ずいぶん前に奥様が運んでくださっていたポットのお茶で一服。なんだかフルーティ、聞けばオーガニックライチのフレーバーティーだった。お茶うけはリンツのチョコレート!

そして丸背のやりかたを教わる。角背ならばそのままバッケ板に固定して叩くのだが、丸背はまずクロスの切れ端で帯をして固定、本を机に押し付けたままページを六分持ち上げ、親指の腹で押しつつ外側をひっぱりアールをつける。最初だけ六分持ち上げるのは、アールが山にならないように。裏返して五部もちあげ、調節しながら三日月を作る。ほんとうにこんな手作業だとは!帯で固定しているとはいえ、アールをつけたあとの扱いは慎重となる。アールがずれないように保ったまま寒冷紗を巻き、天地を間違えないようにスピンをつけ、花切れをつけ、ハトロン紙2枚を貼る。花切れとスピンは林芙美子にもつけた。

その時点で2時間から2時間半だったか、けど絵本は仕上げようということで、最初に見返しをはがした台紙に革を貼る。いつもと順序が逆になる(というのをわたしは理解できなかったが)ということでお師匠がいろいろ計ってくださって革に印をつけ、背表紙の厚紙を細く切り出し(お師匠は0.5ミリのことを500ミクロンと言うからややこしい)、溝に熱したコテを押し当てるのだが、牛革が伸びたり溝がわかりにくくて熱いコテで革を傷つけてしまったりしててんやわんやになった。最後の見返しを貼るのもお師匠がさっさとやってしまったからもしかしたら途中で面倒くさくなったのかもしれないな…。

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革に傷がついてしまった…(わたしがやってしまって表はお師匠にしてもらったのだが、お師匠も手が滑って傷が…笑)

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中身はぶ厚い紙で、きれいなもの。少し見えている見返しは黄色。

 

途中で娘さんがご友人と一緒に食事から帰ってこられて、わたしの分まで切り分けたアイスクリームを頂いたり、なんだか食べてばっかりだな…。と思っていたらエジプト・アラブ土産に上等なナッツを頂いた。お返しというわけではないけれどこの間個人的に書いた小説(格安製本で仕上げた)を渡した。楽しみにしてくださっていたとのこと。せっかく製本を学んでいるのに、それを上製本にするには時間がなかったのが心残り。

お師匠は来週から修士論文の製本が詰まっているらしく、10日間ほどは立ち寄れないことになっている。11人分を4冊ずつとかで徹夜仕事も…。わたしなどこの間一日徹夜しただけでもこりごりだったので、お師匠曰く「盆と正月が一緒に来たようなもんで」(たとえがおかしい?)。活字拾いだけでもお手伝いできればいいと思ったのだけれど、背表紙の厚みで号数を決めるから難しいと断られた。失敗できない仕事の足手まといになるのも怖い。年末の風邪がまだちょっと残っているそうでそちらも心配。わたしより46歳も年上なのだ。わたしが学び続けられるためにも、お師匠の仕事を手伝えるようになりたいなと、そのとき初めて強く思った。

 

 

20190114【製本修行】今年最初の製本修業

(1冊目を仕上げてからも、新しい修繕に2回行ってますが、それぞれワークショップのお客さんとお話ししながらだったため、こわしと綴じで終わってました)

お師匠がせっかちなので、今4冊同時に進んでます。
今日は3冊分綴じ、うち1冊は2束綴じを習いました。もしかしたら空間把握能力が必要なんじゃないかな…お裁縫が苦手なのももしかしたらそれが理由…?
きれいに三カ所、二カ所と糸がかがるのはけっこう楽しいです。
ここで2時間。f:id:gotandakunio:20190114180709j:plain

そして4冊文の見返しの紙を決める。
ガリバーだけは元の見返しを補修して使うことにしました。
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あと最近手に入った古い着物の柄を見せていただきました。
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これなんかは花街の芸妓はさんの着物の裏地だったのではないかと。蜘蛛の巣のように男(お客)を掴まるとか…粋!
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そしてこれは娘さんが幼いときのお着物だったそう、紅白鮮やかでモダンな配色。
そしてなんとこの着物は、小さいノートにするにはもったいないほどの大柄がありました。
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お父様が絵師だったというお師匠は絵付けのことまで詳しく、金の縁取りをするだけの職人さんもおられたとか。
着物を着る身としては、こわしてしまうのはもったいないなあと思うけど、着る人がないということなら二束三文で引き取られるより素敵なノートに生まれ変わる方がいいよね。

興味深いお話しをたくさん聞けて、4時間!
次は背固めと表紙作りまでいけるかな。

20181205【製本修行】弟子入り4日目 箔押し

両親の結婚記念日なのでクリスマスカードを贈った。
実家に煙突を導入したということで、「(暖炉じゃなくてストーブだけど)煙突飛行ネットワークですぐに帰れるようになるね。交通費もかからないね」と冗談を言ったら、「それしよ思たらそっちの部屋(※アパートです)にも煙突つけんなんのちゃうん」と言われた。なかなか現実的じゃない方法でした。フルーパウダーも入手しないといけないし。(※左の会話のネタはハリポタです。ところでアメリカ舞台のファンタビがバンバン姿現ししまくるのに対して、煙突飛行ってなんかイギリスっぽくて良いね。ファンタビとちがって登場人物の中心が姿現しの必要がない学生、というのもあるのだけど)

さて、今日でいよいよ修繕(リメイク)本の完成。
最近は定時上がりの日を獲得するのが難しく、上司の手伝いで遅くなった日なんかの帰り際に「ところで今週も一日定時で帰りたいのですが、何曜日がいいですかね?」なんて言って無理矢理日を決めさせ、実質いろんな追加仕事でスケジュール通りに進んでなくても当日はしっかりと定時でタイムカードを切り風のように帰る、ということをしている。心を強く持つのだ。

工程的には先週貼った表紙に箔押しをしてから本文と接合する。
まず膨大な量の活字の中から、号数を確認しながら該当の活字を拾うのが大変だった。
本来なら4号にしたかった著者・訳者の名前も、福知狂介の「狂」の4号がなくてやむなくすべて3号に変えたりした。(そのせいで後に背幅にたいして二行入れるのが飛躍的に難しくなった)

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活字は号数ごとに、だいたい偏ごとに分けられて壁一面に収められている。以前はどの号数のどの文字がどこにあるのかすぐ手が伸びたとお師匠は言うが、最近は物忘れが多くなったとのこと、わたしはというとまだ場所を覚えられないのはもちろんのこと、印字面がこちらを向いているため、鏡文字を見て探し出すのが思ったよりも難しかった。その上、一部旧字まで揃っているのだ!(それも、号数ごとに!)どれがあって何がないのか把握していなければ、どんなレイアウトにするかも定まらないというわけ。どうしても無い活字は発注しなければいけないが、昔は京都にあった店もなくなり、大阪と名古屋もなくなり、今や東京に1店あるだけだという。

ようやく活字を拾い終わり、箔入れ。号数によって、また箔の種類やクロスの素材によって、押す力や熱は異なるそうだ。箔入れの機械は55年、お師匠とともにある。日によって調子が変わるので、それも計算に入れないといけない。ニクロムは特注で、壊れたらもう直してもらうあてがない。もはやお師匠の引退を待つのみであった機械を、ほんの少し使わせてもらう気持ち。

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押す練習をして機械の手応えを確認したあと、実際のレイアウトを確認していくのだが、ここでまた大騒ぎ(大騒ぎしていたのはわたしだけです)。ふだん広告を作る会社で働いているので、DTPというか、文字の配置などはデザイナーさんたちがひょいっとパソコンでやってくれるのを何度も目撃している。ここではどアナログなので、活字の彫りを横から見ながら背表紙の位置を決めなくてはならない。まず2号の題字を背幅の中心に持ってくるのに、「王」の縦棒を横から見ながら位置を決める。背幅が○mmで活字が○mmだから残りを2で割った○mmが端っこからの距離、だなんて算出もしてみたけれど、実際は厚みや溝があるのでミリ単位だと大きなずれとなる。最終的には目見当で半ばヤケクソに位置を決めた。
小さな本や背幅が薄い本はとにかく小さなずれも命取りになる。
著者・訳者名はもっとむずかしかった。また計算して、王の縦棒から一ミリ外に端が来るよう押せばいいことまではわかったが、俯瞰で確認できないのでまた額をくっつけるようにして片目をつぶって確認する。最後の訳者名は著者と頭を揃えることにしたはいいが、福の横棒にできた、明朝特有の山のさきっぽを見て位置を決めたため、マの横棒とのコンマ5ほどのずれになってしまった。また、漢字はマスいっぱいに彫られるのとカタカナ(とひらがなも)内側に彫られるため、号数が同じでも実際に押してみると大きさの印章がだいぶ違う。
ちなみに、大学や図書館へ入る本などは背表紙にラベルを貼るため、下はそのためにわざと空けるらしいです。
間違うとまた表紙貼りからやり直さないといけないというプレッシャーのなか、ヒーヒー言いながら押しました。ここですでに一時間経過。体感的には30分もない。

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ようやくできあがった表紙に本文をセットしてみたら…おかしい、チリが出ない。何をどう間違ったのか、たぶん溝の幅がうまく取れなかったのだろう、けど天地のチリも微妙に少ないというのはどういうことだろう。天地は花切れが貼ってあるのでどうにもできないとして、小口のところはすこし裁断してもらった。凹む。
溝にボンドを貼って、これも特注のコテで耳のところに接着していく。
見返しには画用紙を使っているため、ライスのりで接着したのだが、勘違いしてたっぷりと付けてしまい、プレスしたときにはみ出る事態に…。開けてみて、見返しが波打っていたのでもう一度長めにプレスしたのだが、ここでまたも失敗。見返しがヨレたままプレスしてしまったのだ。「これは不細工。こんな失敗初めて」とのお師匠の判断で(凹む…)なんと見返しを剥がし(ボンドだとこうはいかない)、もう一度見返しを切り出して接着。きちんと計って切り出したのだが、実際は耳の部分があるためにずれて、本を綴じたときにはみ出してしまった。ただ、完全に乾いた後でカットできそう。なにはともあれようやくこれで本の形に。

最後に元の表紙を切り出して表紙に貼る。古い木製で手動の裁断機を使わせてもらう。
ボンドで貼り付けて完成!そして最後の失敗。先程長くプレスしたためか、裏表紙の見返し遊びと最後のページにのりが染みてくっついてしまった、無理矢理剥がしてみたけれど、真っ赤な画用紙の繊維が残ってしまい…最後の最後に無念。
とはいってもリメイク処女作品、表紙のイラストに赤色が使われているため見返しを赤にしたのだが、緑のクロスに金箔文字の背表紙で、図らずもクリスマスカラーに。娘さんが絶賛してくださった。

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この黄ボールでできた板も、お師匠がわたしのために新しく作って下さったものだ

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興奮さめやらぬ。

 

なんとか年内も時間をつくって、工程をきちんと覚えるためにもほかの本を完成させていきたいと思う。

20181128【製本修行】弟子入り3日目 表紙貼り

思いがけず業務が多かったが、残業してほしそうなチーフに謝りつつ工房へ。
バスを待つ間、残しておいた昼ご飯のあんパンを食べる。小雨。
前回固めた背が、強いプレスで耳のようになったというので、角背上製本にすることに。短いハンマーで耳を作るように斜め下に叩く。コツコツコツ。
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こちらは師匠の手。55年使っている鉄のハンマーには、なんと指の形に凹んだ手形がついている(!)
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そして、天地の寸法を測って3mm×2足し、耳から小口までの寸法を測り、黄ボール紙を切りそろえる。背あての寸法も必ずぴったりに切り出す。そうしないとチリがうまく出ないらしい。わたしがやると2mmずれた。
緑のクロスを選び、その3枚を並べて1.5ミリ余白を取って切り出す。ボンドでしっかり貼る。ボンドを薄める割合は、長年の経験だそう。
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ボンドをつけてからの作業は素早く。梅雨の時期はクロスが丸まってくるとのこと。厚紙と竹でしっかり貼り合わせ、一晩乾かす。湿っていると箔押しがうまくいかないそう。
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まだ時間があったので、林芙美子の本と新しく入手した2冊(絵本と詩人の本?)をこわす。だんだん慣れてきたかも。変な反故紙の背あては出てこなかったのが、残念。
忘れないよう、同時並行でなるだけ多く補修の練習をしたい思い。
道具に関して、皮すきは買ってこなきゃね、とのこと。刃物屋さんを訪ねよう(どこにあるんだろう…。)あと、伏見にあるという製本資材の会社に万力と角板(A4用)が売っていたらいいのだけれど…。

今夜は娘さんはお出かけで、奥さまがお茶を入れてくださった。香りの高いお茶と、ココナッツクッキー。(師匠は「えびせんか?」と言っていた)
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次回はいよいよ箔押しと、本体と表紙の接合。